研究内容

水圏環境に生息する単細胞性光合成生物である微細藻類は、CO2を吸収しながら、農業や環境浄化への寄与(グリーンバイオ)、医薬品生産(レッドバイオ)、燃料生産(ホワイトバイオ)を行うことができる(図5)。また、陸生多細胞生物と比較して高いバイオマス生産性を示す。これらのことから、様々な有用物質生産ホストとして注目されている。例えば、微細藻類が生合成する抗酸化物質アスタキサンチンは既に約100億円の市場規模がある。また、微細藻類に由来する脂質を原料としたバイオジェット燃料の生産技術の開発は経済産業省が策定したカーボンリサイクル技術ロードマップの大きな柱となっており、産官学を挙げた実用化研究が実施されている。本研究では、微細藻類を用いたゼロエミッション実現に資する物質生産プロセスの開発を行う。

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図5 微細藻類を用いた有用物質生産

①微細藻類を用いたバイオ燃料生産

 微細藻類が蓄積する脂質は容易に脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル燃料)や炭化水素(バイオジェット燃料)に化学変換可能である(図6)。また、微細藻類に由来する酵素を利用し、水素生産が可能であることも広く知られている。これらの燃料原料生産に関する物質代謝は、微細藻類の光合成活性と密接に関与しているこのとから、ゼロエミッション実現に向けて、微細藻類を用いたバイオ燃料生産に対する期待は大きい。本研究では、本学が保有する燃料原料を高蓄積する微細藻類に対し、ゲノム編集技術を用いて分子育種を施し、更に効率的な燃料原料生産を目指す。

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図6 微細藻類を用いたバイオ燃料生産

②微細藻類を用いた魚油代替物質、医薬品生産

世界の人口が増加する中で、食料の安定的な供給は、Sustainable Development Goals(SDGs)の一つとして掲げられている(目標2「飢餓をゼロに」)。増加する食料需要を支える上で、魚介類は重要な位置を占めており、その生産量(2016年の年間生産量:約1億7千万トン)は、牛肉(約7000万トン)、豚肉(1億2千万トン)、鶏肉(1億2千万トン)を凌ぐ。その中で、養殖魚介類は魚介類の総生産量の約半分(約8000万トン)を占めるに至っており、さらに毎年平均6%の割合で増加している。このことから、養殖魚介類の生産性を持続的に向上させることは、食料供給全体の向上・安定化に直結する。しかし、現在の養殖魚介類生産は持続可能性が高いとは言い難い。これは、養殖魚の生育のために、天然魚の魚油を原料とするオメガ3脂肪酸(主にEPAとドコサヘキサエン酸(DHA))を飼料(餌)に添加する必要があり、「魚の油で魚を育てる(魚がいないと魚を育てられない)」ためである。年間100万トン得られる魚油の内、約80%は養殖用飼料に添加されている現状は、「フィッシュオイルジレンマ」と呼ばれている。

このジレンマの解消は、食料の安定供給のために今まさに解決に着手すべき課題である。そのためには、天然魚に依存しない持続可能なオメガ3脂肪酸の生産方法の開発が必要である。微細藻類は、魚油の代替となる持続可能なオメガ3脂肪酸の供給源として、光合成によりオメガ3脂肪酸を生合成できるが注目されている(図7)。本学が保有する微細藻類は、独立栄養培養条件下で生産する微細藻類バイオマスの中で最も高いオメガ3脂肪酸生産性を示す。オメガ3脂肪酸微細藻類についても、ゲノム編集技術を用いて分子育種を施し、生産性の向上を目指す。また、微細藻類由来脂肪酸は、医薬品や香料、色素などに酵素変換可能であることから、合成生物学に基づいた代謝改変によるバイオ医薬品製造プロセスの開発についても検討する。

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図7 微細藻類を用いた魚油代替物質の生産

研究者

研究者

田中 剛

東京農工大学大学院工学研究院 生命機能科学部門 教授

論文

  1. Yuichiro Kashiyama, Yuki Ishizuka, Issei Terauchi, Toshiki Matsuda, Yoshiaki Maeda, Tomoko Yoshino, Mitsufumi Matsumoto, Akinori Yabuki, Chris Bowler, Tsuyoshi Tanaka "Engineered chlorophyll catabolism conferring predator resistance for microalgal biomass production." Metab. Eng., 66, 79-86 (2021)
  2. Yoshiaki Maeda, Yuki Tsuru, Nana Matsumoto, Tomomi Nonoyama, Tomoko Yoshino, Mitsufumi Matsumoto, Tsuyoshi Tanaka "Prostaglandin production by the microalga with heterologous expression of cyclooxygenase." Biotechnol. Bioeng., 1-10, (2021)
  3. Tsuyoshi Tanaka, Yoshiaki Maeda, Noraiza Suhaimi, Chiharu Tsuneoka, Tomomi Nonoyama, Tomoko Yoshino, Naohiro Kato, Kyle J. Lauersen "Intron-mediated enhancement of transgene expression in the oleaginous diatom Fistulifera solaris towards bisabolene production." Agal Res., 57 (2021)
  4. Yoshiaki Maeda, Kahori Watanabe, Marshila Kaha, Yusuke Yabu, Mitsufumi Matsumoto, Tsuyoshi Tanaka, "Assessment on the oil accumulation by knockdown of triacylglycerol lipase in the oleaginous diatom Fistulifera solaris." Sci. Rep., 11, 20905 (2021)
  5. Atsushi Arakaki, Takuya Matsumoto, Nobumitsu Shimura, Yoshiaki Maeda, Tomoko Yoshino, Mitsufumi Matsumoto, David Kisailus, Tsuyoshi Tanaka "Analysis of UV irradiation-induced cell settling of an oleaginous diatom, Fistulifera solaris, for efficient biomass recovery" Algal Res. 47, 101834 (2020)
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