研究内容

草本系バイオマスの中で、イネ科植物はそのほとんどを占め、イネ、コムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、ミスカンザス、エリアンサス、スイッチグラスなどが食料、飼料、バイオ燃料等に生産・利用されている。イネはアジアで世界の約90%を生産し、米を主食とする東南アジアでは最も栽培面積が多い。生産されるバイオマス量も最大である一方で、籾殻、糠、わらのカスケード利用、バイオマスプラスチックなどバイオマス資源利用、オリザノール、フェルラ酸など人のサプリメントや家畜添加飼料などの利用は十分に進んでいないのが現状である。食料と競合しないバイオマス生産システムとともに、カスケード利用システムの構築が課題となっている。農林水産省では2021年1月に緑の食料システム戦略を策定し、2050年までに化学肥料30%削減、化学農薬50%削減、有機農業面積を100万haに拡大する目標を掲げ、脱炭素次世代農業への転換を目指している。日本を始め、東南アジアにおけるバイオマス材料の持続的な脱炭素生産システムを開発していく必要がある。

イネは2004年のゲノム解読後、ポストゲノムにより、光合成、高バイオマス生産、養分吸収、ストレス耐性、品質など重要形質に関わる遺伝子の同定と機能解明が最も進んだイネ科作物であり、2倍体でゲノムサイズが比較的小さいイネで得られたゲノム情報は他のイネ科作物の改良へ適用が可能である。これまで、化学肥料多肥条件で収量、バイオマス生産の高い品種は育成されているが、化学肥料削減下でバイオマス由来の有機質肥料を利用した持続的農業生産システムに適した品種はほとんど開発されていないのが現状である。

本学ではゲノム育種により、食料、飼料、バイオエネルギー、バイオマス資源利用など多用途に利用可能なイネ品種の開発を進めており、バイオマス材料イネ品種として、リグニン合成酵素欠損でわらにデンプン、糖類を高蓄積する「リーフスター」、高バイオマスの「モンスター農工大1号」、高バイオマスでも台風で倒れにくい「さくら福姫」などを開発(図1)し、普及するなど社会実装で実績がある。

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図1 バイオマス材料イネ科作物品種の開発

本研究では、イネゲノム情報、ゲノム編集を利用し、高光合成、高子実収量、高バイオマス生産、籾殻、糠、わらのセルロース、リグニン、米油、オリザノールなど高度にカスケード利用し、それぞれの有用成分の生産能力の高い品種開発をスマート育種により行い(図2)、これら次世代の多用途利用品種を用いて、食料と共に、バイオマスを生産、利用し、変換後のバイオマス資源の生産物、残渣を土壌に戻し、循環型のバイオマス生産システムを構築することにより、2030年目標達成を掲げ世界的に例のない化学肥料を削減した脱炭素草本系バイオマス材料耕作を目指す。

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図2 バイオマス材料イネ科作物のスマート育種

研究者

研究者

大川 泰一郎

東京農工大学農学研究院 教授

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