バイオマスの高速熱分解によるバイオオイルの製造は、バイオマス成分の大部分を直接的に液体燃料へ変換できる効果的な技術であるため大きな注目を集めている。しかし、熱分解プロセスから得られたバイオオイルは多様な含酸素化合物から構成され、一般的に高粘度と強い腐食性を示し、さらに化学的に不安定で貯蔵性等にも難点がある。このため、粗バイオオイルを燃料または化学原料として使用する前に、脱酸素化などのアップグレードが必要である。HYや、H-ベータ、H-フェリエライト、HZSM-5などのプロトン交換した酸性ゼオライト上でのバイオオイルの常圧接触分解は、水素ガスが不要なバイオオイルのアップグレードに効果的な方法であり、特にHZSM-5は、バイオオイルの脱酸素化において最も効果的な触媒として知られている。しかし、HZSM-5自体は、その細孔構造が微細であるため、分子サイズの大きな反応物や生成物の細孔内拡散に制限があり、さらに反応中のコーキングなどでマイクロ孔の入り口が容易に閉塞し、急激な触媒失活を起こす。この問題に対処する代表的な方法として、以下の3つが挙げられる。1つ目は金属修飾で、脱酸素を促進するためにゼオライトの酸性度を最適化するための最も簡単な方法である。しかし、この方法ではゼオライトの微細孔の拡散制限の問題を解消することは困難である。2つ目はHZSM-5の細孔構造の階層化である。これは、本来のHZSM-5よりも大きなメソ細孔を構築することで拡散制限を解消するものである。3つ目はHZSM-5への中空構造またはコア/シェル構造といった特殊構造の付与である。本研究では、上記の3つの方法でバイオマスの高速熱分解に由来するバイオオイルをその場でアップグレードするためのHZSM-5ベースのゼオライト触媒を開発する。また、触媒性能と触媒調製に影響を与えるメカニズムを検討する。
国際民間航空機関(ICAO)をはじめとした航空業界ではCO₂排出量削減が喫緊の課題となっており、課題解決策の一つとしてバイオマス由来バイオジェット燃料の導入が急ピッチで進められている。海外では廃食用油等を原料としたバイオジェット燃料が既に実用化・商用化されている。上図に商用化されている植物油や廃食用油からバイオジェット燃料製造の二段水素化プロセス(水素化脱酸素+異性化・クラッキング)を示しており、現状の製造コスト(1000-2000円/L)が高いことが問題点である。
我々は、新規高性能二機能(水素化脱酸素/異性化/クラッキング)触媒を開発し、パーム油やパーム脂肪酸留出物(PFAD)等を用いて、一段プロセスでバイオジェット燃料を製造する技術を開発した。現在、PFADを原料として、ほぼ100%の脱酸素率、且つ約30%のジェット燃料成分収率を達成している。これにより生産コストは約120円/Lまで低減できると試算され、価格面においても競争力の高いバイオジェット燃料の製造を可能とした。