バイオマスは再生可能かつグリーンなエネルギー資源であり、バイオマスから高効率にガス化し、水素や合成ガスへ変換すれば、燃料電池などの高効率エネルギーシステムとの組み合わせや液体燃料の合成などが可能となる。しかし、バイオマスは多種多様であり、一般的に広く薄く存在するため、大規模発電を考えるとき、収集・運搬方法の改善、地域間の資源の流通、輸入材での手当なども考える必要がある。また、現在、バイオマスのガス化は無触媒・高温(>1000 ℃)で行われているケースが多く、水蒸気ガス化反応温度を顕著に低温化させ、エネルギー効率を劇的に向上させるために、高性能な触媒を開発し、バイオマス中に多く含まれる難分解性高分子であるリグニンも低温で全量にガス化し、エネルギー収支を高めることが望ましい。また、水蒸気ガス化反応中タールなど副生物質の生成を大幅に抑制するため、新型のバイオマスガス化炉の開発も必要である。弘前大学地域戦略研究所エネルギー変換工学研究室では、バイオマス資源の収集・輸送が不要な小規模分散型バイオマス常圧低温(550-650℃)全量ガス化による水素生産を目的とし、低コストかつ高性能なバイオマスガス化触媒とタール改質触媒を見つける上、その触媒を用いた小型の分離型バイオマス水蒸気ガス化システム(図1)を開発している。
ガス化技術は、世界中で200を超える方式があるといわれている。ガス化炉型の違い、ガス化剤の違い、ガス化温度の違い、さらには常圧でガス化するか高圧でガス化するかなどで様々な組み合わせのものが考案されている。本研究で開発しているバイオマスガス化炉はバイオマス熱分解反応器、バイオチャーの水蒸気ガス化反応器、タールの水蒸気改質反応器及び未反応バイオチャー燃焼反応器で構成され、バイオチャーの水蒸気ガス化反応器の前段にバイオマス熱分解反応器を設けることにより熱分解反応と水蒸気ガス化反応を分離し、バイオチャーガス化する時の阻害因子を排除し、水蒸気ガス化効率の向上ができる。また、熱分解及びガス化反応に必要な熱を未反応バイオチャー燃焼反応器に通した触媒粒子から供給できるため、省エネにも繋がる。
ガス化原料:従来のバイオマスガス化の原料は木質バイオマスが多い、バイオマス原料の付加価値の最大化の視点から、バイオマスカスケード利用後の残渣、例えば:リグニンの一部を化学品に変換した後の残渣や、メタン発酵残渣、藻油抽出後の残渣などの高効率ガス化は重要だと考えられる。本研究では杉やリンゴ剪定枝など木質バイオマスと稲わらや、もみ殻、ジャイアントミスカンサス草本系バイオマス原料だけではなく、上記のバイオマス残渣も研究対象になる。
熱分解特性の特定:上記のバイオマス残渣熱分解特性を把握する。バイオマスガス化するとき、低温熱分解によるタール生成特性は全体のガス化の影響が大きいと考える。特にバイオマスガス化炉実機設計と運転の時、タール生成量によって、ガス化の構造設計に影響する。
触媒開発:本研究の目標の一つはバイオマスガス化に向ける高性能な触媒の開発である。特に、バイオチャーの低温水蒸気ガス化促進できるアルカリ触媒、タールの低温水蒸気改質触媒、熱媒体粒子としても利用できる強度を有する触媒の開発を行う。
ガス化システム開発:これまで、本研究室では実機(100kg/日バイオマス処理能力)の1/10規模の小型の分離型バイオマスガス化デモ機(上図)を完成させた。既存の100kW級以下小型バイオマスガス化炉はダウンドラフト式が多く、良質な木質チップ以外の使用困難のほか、副生タールも多く発生する。本分離型の小型バイオマスガス化炉はバイオマスの熱分解とチャーのガス化を分離し、多種類バイオマス使用可能、低タール生成、効率的な熱回収など特徴を有する。これから、上記のガス化原料を利用できる水素生産のため、このバイオマスガス化デモ機を改良して、100kg/日バイオマス処理能力のバイオマスガス化実機を設計・試作する。これ以外、各種のバイオマス残渣の特徴に応じて、ほかのバイオマスガス化炉の設計・試作も行う。