今回と次回は、ワークショップに参加した2名の農工大生からの活動報告になります。
まず、東京農工大学大学院連合農学研究科生物生産科学専攻 博士後期課程2年
千装(ちぎら)公樹さんの報告です。
<活動報告>
本プロジェクトは炭素循環型社会の実現を目標に掲げています。
今回の福島ワークショップでは、持続可能な炭素源としてのバイオマスを、
エネルギーや材料として活用していく方法がテーマでした。
初日にまず訪れた浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドは、
広大な土地に一面広がる太陽光パネルとその中央に聳え立つ水素タンクが圧巻の風景でした。
一目見ただけで感嘆の拍手を贈ってしまいそうでしたが、本ワークショップの参加者は
本質を見据えていました。早速、エネルギーの利用効率について質問が飛びます。
すると水素燃料の生産の過程では気体の圧縮のために多くのエネルギーを費やし、
効率的でない一面があるということが明らかになりました。バイオマスの利用も
それ自体が目的になってはなりません。いくらバイオマス由来の素材を開発したとしても、
その過程で消費するエネルギーが考慮されなければ単なるイメージ戦略に終わってしまうでしょう。
ある参加者は、「ある素材やエネルギーを使用した場合、既存の素材やエネルギーと比較して
どの程度環境負荷を軽減できるのか具体的な数値で示すべきだ」と述べていました。
2日目のワークショップでは、ライスレジンを製造する株式会社バイオマスレジンホールディングスの
中谷内副社長の講演がありました。私は、やはりこれも加工に大きなエネルギーを費やすものなのでは
ないか、とはじめは疑って聴きましたが、こちらは全くの誤解でありました。
「炊いた米をプラスチックに混ぜるイメージ」だといいます。さらに米に限らず、
様々な植物由来原料でも同様の加工が可能であるということで、
応用も広く可能な技術であるようです。材料としてバイオマスを利用し化石燃料由来の炭素使用を
削減するために、この一例はその重要な第一歩になり得ると思われました。
私はイネの研究に携わっていますが、今回のワークショップ中、先述のライスレジンも含め、
バイオマスとしてのイネに熱い視線が注がれていることを感じました。
今後さらなるエネルギー価格の値上がりと同時に、穀物価格の値上がりも起きるとなると、
耕作放棄地の多い日本の農地の現状も一転し、フル稼働で食用作物とエネルギー・素材用作物が
栽培されるようになることも想定されます。そのとき、エネルギー・素材用作物と食用作物の
生産バランスを保ちながらをどのような作付で土地を有効活用していくのか、
高バイオマスの作物を栽培する中でも地力を安定的に維持するためにどうすればよいか、
といった課題が浮き彫りとなることでしょう。バイオマスのエネルギー・材料への
変換技術もさることながら、そのような農学的研究も同時に極めて重要であると考えられます。